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『転載による現代詩』『クロラ』『小倉拓也』

2009-05-17

Ps & Qs 「詩交遊泳」より

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「春鬼(2)」


*1

女は覚悟が良くて/私などより見事に散らかる。/心も足も曝して見せる。/彼女を散らかしたのは/私であった。/その私が目を逸らし/女が真直ぐ/見詰めるものがある。


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春がきた。

重たい赤ん坊を背負(しょ)うように

白い薄手のシャツを着て

ずるずると音を立てながら。


わたしがこうして踏んでいる

わたし自身のわたしの影と

靴との隙から這い出してきて、

さあ、ああ、春がきた。


ふと足元に目を遣れば

春はひたすらに丸い眼で

昆虫のように

じっとこちらを見つめている。


芋虫よりもなまめかしい白い手が

わたしの足首をつかむ。


その手に死体の冷たさはなく、

燃えさかる恋の熱もない。

だから震えがとまらない。


×


――もう少しあたたかくなったら、一緒に野球を観にいこう。


そんな呪詛さえ春は吐く。

春は、

気が狂うほどに穏やかな南風を

音にして

声にならしめて

聞くものの脳内で言語に変化し

その想いさえ蝕んでいく。


いつかは在ったはずの

冷たい水のようだったわたしの戦慄は

春に飲まれて今はもうない


×


春の心

春の脳

春の手

春の指先


それがもとから人だったのか

人を丸ごと食らい尽くして

酸素のように隙間なく

人のかたちを埋めたのか


わからないが

ここには春の人形があり

それはわたしの似姿で

心身を共有している。




*1 小川三郎「姿見」(『永遠へと続く午後の直中』収録)より